ペルーチンをなぞる 4 oct. 2006
本日朝より晴天、波穏やか。
朝はいつも潮が満ちる。
満潮時には海上に立つ部屋のすぐ目の前の岩にいつもカニがへばりついている。
ビールを1本開け、昨晩寝る時に聴いていたペルーチンのフレーズを朝っぱらからピアニカでなぞってみた。
単純明快なモントゥーノの原型がここにある感じ。
モントゥーノ、つまりはリフなんですけど。
ヘスス・ルバルカバを始め、たくさんのピアニストが彼の影響を受けてプレイしているはず。
ペルーチンのピアノは和音の選び方、スケールの使い方、トリルの入れ方、リズムの取り方、そのどれもがラテンピアノのエレメンツという感じ。
丸一日いるティオマンも今回は今日で最後と思えば感慨深いものもある。
17日間、一年の4.7%をこうして過ごしたわけだ。
これは決して小さくはない時間だ。
ここ数年、この時間を利用して様々な著作物を仕上げてきたが、今年は本来の創作に立ち返った感じ。
アルバム一枚分の作曲、そしてそれとは別にアルバム一枚分の作詞。
欲を言えば大仕掛けな曲を一つ作っておきたかったが、この環境にそれはふさわしくないようだ。
ピアニカが存分に練習出来たのも良かった。
これは帰国後も一定の習慣となってくれそうだ。
それにしても良い場所を見つけたものである。
ティオマン島。
今回の運賃は往復2万以下、出発後24時間以内に到達出来る。
最も速くてしかも安いのは米系航空会社の深夜着、不便な便を利用してシンガポール、チャンギ国際空港で4時間ほど夜を明かし、地下鉄の始発に乗ってブギス駅まで行き、そこで国境を越える星柔快車のバスに乗って、マレーシア国境の都市ジョホールバルのバスターミナルへ向かい、そこでメルシン行きのバスに乗り換え、メルシンの港からティオマン島行きのスピードボートに乗るパターンだろう。
これならお昼にはティオマン島に着き、その日のうちにリゾートを楽しめる。
空港の夜明かしがきついと言えばきついが、成田からシンガポールまで飛行機に乗っている7時間を寝続けてしまえばどうって事もない。
日本に来る外人の立場に立ってみれば、この行程は成田に到着した後、東京港からフェリーで伊豆大島へ行くくらいの感じだろうか。
便が頻繁にあったとしても、熱海や稲取の乗り換えではそちらの方がずっとキツい感じだ。
数年前に出来たという千葉は館山から大島に向かうフェリーを利用するのも、シンガポールからティオマンに向かうよりはロングアプローチだろう。
ティオマン島はリゾートとしては非常に規模の小さい島だから、普通にご飯を食べたりナイトライフを楽しみたいなら直行せずにシンガポールかマレーシア第二の都市ジョホールバル、あるいは私のように手頃な地方都市クルアンで何泊かする事をお勧めします。
とにかくティオマン島は開発されていない自然が魅力の島だから、来てしまったら人工的な贅沢はあきらめた方が宜しい。
その代わり、すぐそこの海でウミガメと泳げたりオオトカゲと散歩したりする事が出来ます。
一カ所だけ、ティオマンでもベルジャヤというホテル周辺だけは別格らしいけれど、行った事がない。
ま、そういうリゾートするつもりなら私は他の場所に行くな。
同じマレーシアでもランカウイとか、あるいはもっと開発されているらしいペナンとか。
レストランでロティチャナイを食べた後、桟橋へ海の様子を見に行く。
昨日から風もなく穏やかに晴れ渡り、条件が良いだろうと思いきや、今日は小さいが触手の長い、刺されたら痛そうなクラゲが結構いる。
それに波がなさ過ぎるのか、海面にややゴミが多いような。
やはり昨日のような好条件にはそうそういつも巡り合う事はない。
さっき開いているのを確認したので、インターネット屋に行く。
今回の旅中ではメールの確認もこれで最後だろう。
コツを覚え、大分効率良く利用出来るようになり、30分で4RM(120円ちょっと)。
それでも30分でミクシイのメッセージとヤフーのメールを一通ずつ確認して、それに簡単なお返事を書くのが精一杯。
さて、悪条件とわかっているなか泳いでみるも、クラゲを警戒しながらだから思い切り泳ぐ事が出来ない。
昨日あれだけ思い切り泳いだ後だと、何か気持ちが悪い不完全燃焼だ。
しかし、結構いる。
本日怖ろしいのは、いつものずんぐり君並の個体数で、触手の長い小さなクラゲがいる事だ。
あの形は万が一にも当たったらタダでは済まなそうだ。
しかもずんぐり君よりも透明で小さいから、とにかく発見が困難である。
さらには今日は海水の透明度があまり高くない。
うわっ、こいつらに三方を囲まれた。
泳いで来た方向へと戻り、難を逃れる。
クラゲは固まって浮遊している事が多いから、一つ見つけたら突っ切って逃れようなどとはあまり考えない方がよい。
下がるのが一番。
恐ろしいずくめの条件のなか、最高レベルの警戒態勢でゆっくりと泳いだが、それでもその後くちびるとかかとの辺りを計2カ所やられた。
ピリピリする。
一旦砂浜へ退却。
何か獲物を口に加えて得意そうなサヨリを見た。
どうしようか迷ったが、こりずに再び挑戦。
入水。
泳ぐ。
程なくして触手の長い、あの小さなクラゲが突然鼻先に現れた。
ビビって腰をひねった。
海上で体を痛めるのは直接命に関わる。
あえなく退却。
あのクラゲは泳ぐのも結構速いんだ。
コバンアジが石切の石の様に水面を跳ねて行くのを今日は水面ぎりぎりで確認した。
いやー、嫌な日だ。
波は穏やかで太陽は輝き、一見絶好の泳ぎ日和なのに、そうはいかない。
浮遊物が多いのも気持ちが悪い。
ここの海は適当に荒れる日もなければ、穏やかな日が続くと汚れてしまうようだ。
浜へ上がると目の前で若い白人女性が下半身をむき出しにして下着を脱ぎ降ろし、水着に着替えだした。
距離は少しあった。
とはいえ。
白人というのは平気で肌を人前にさらす。
以前パヌーバで見た事のある、生まれたままの姿で浜辺を戯れていたカップルも白人。
浜辺で水着のブラをはずして肌を焼いているのも白人。
その他諸々たいてい白人。
何か基準がずれているに違いない。
部屋へ戻ってビールを1本開ける。
数年前に買ったカリスト・オビエドのアルバムを聴いてみる。
アレンジがひと頃のイサック・デルガドやあるいはクリマックスとも似ている。
同じ人がかんでいるのだろうか。
もしかしてヒラルド・ピロートとか。
今ここでは確認する術がない。
気だるい昼下がり、桟橋へと散歩しに行ってみる。
やがて雨の降りそうな風と沖の雲の具合。
空気の湿り気。
クラゲはなぜかずいぶんと減っていた。
インド人の商人がインダーのレセプション前付近でマレー系の女性に布を売っていた。
部屋でくつろいでいたら、部屋ごと揺れる突風。
バーンと音を立てて、ベランダの椅子やマットが吹き飛ばされる。
ジャングルの方を見ると、風がこちらに向かって山を吹き降りて来るのがよくわかる。
椰子の木がなぎ倒されそうになりながら順々に頭を垂れる。
ジャングルの奥でバキバキっと音がした。
雨雲とそこから降り落ちる雨がこちらに向かってくるのがよく見える。
客船が湾から出た途端に、その船体を越える水しぶきを上げる。
しかし5分と経たないうちに海上から陽が射し始めた。
なんというドラマチックな展開。
見物の友にまたビールを一本。
やがて今期ティオマン島で見る最後の夕陽が沈んでいった。
相変わらず、クドくもピアニカを練習する。
そろそろライブでやりそうな曲が気になり出す。
夕飯を食べに行く。
夕飯、食べない日もあったし、食べても殆ど野菜カレースープのみだったけれど、今夜は最後の晩餐だから思う存分マレーの味を楽しもうと思う。
なぜか急に餌をやらなかった鮒の事を思い出した。
小学校の頃、水槽やら池やら、バケツやらであたり構わず釣ってきた淡水魚を飼っていたが、そのうちの一つの水槽の鮒に一年ほど全く餌を与えないでおいた事がある。
どうなると思う?
鮒は死なないんだ。
その代わりクチボソかとみまごうほどに体高を落とす。
やせ細って生命維持を簡単にしてしぶとく生きる。
当時、結構感動した出来事。
その後、その鮒に餌をあげた事は言うまでもない。
この間のブラジル1ヶ月旅からとびとびに実験を続けているけれど、私は人間食べなくても案外体力が落ちない事を発見した。
体は細くなるが、活力は落ちない。
いや、むしろ食べ過ぎている時よりも調子が良い気さえする。
食べなくてもまったく体は良く動く。
いくら歩いても、いくら泳いでも平気。
ブラジルなんか一日20kmくらいはザラに歩いていたんじゃないか。
時速6km、10分で1km、1時間で6kmくらい歩くとすると3時間で18kmだから・・・うん、やはり20km以下しか歩かない日の方が少なかったと思う。
泳ぎも泳ぐ日なら数キロは泳ぐ。
食とエネルギー発生の繋がりは一般に考えられているほど単純でもないようだ。
一般に言われている必要カロリーよりずっとカロリーを抑えた食事でも人間、死なないんじゃないか?
野菜にはまったくカロリーなさそうだけど、草食動物なんてのもいるしなぁ。
エネルギーというのは本当に全く物理に沿って食からのみ生まれるものなのであろうか。
睡眠も然り。
普段もあまり寝ないけれど、そうして狂おしいくらい朝から深夜まで一日中動きまわる音楽の旅の期間にはマジ3時間睡眠くらいのアベレージで通してしまうが、かように体は元気に動く。
・・・そういやビールだけは水代わりに飲んでるから、コレがエネルギーか!!!???
アルコールは燃焼効率良さそうだし。
その昔アレマンの国では「液体のパン」として時に兵士には食事代わりにビールを与えたというのを、何かで読んだ事がある。
ここティオマン島では一日に3~4本の缶ビールを飲んでいるから平均して1.2リッターほどのビールを飲んでいる事になる。
と、摂取アルコール量は5パーセントだとして約60mlだ。
60mlのアルコールで一体人間はどれほど走れるものなのだろうか。
普通アルコールは摂取しても全て体温を上げる事に使われてしまうと考えられているけれど。
無論、走る以外の生命維持のための様々な活動にもエネルギーは必要だろう。
私の場合、常に36.8℃に燃えているわけで、これをキープするのに一体いくらほどのカロリーが必要なものか。
そうした維持・活動に使われる他の分が、走ったり泳いだりするためのエネルギーだ。
60mlのアルコールだけではきっと20km歩くのには計算が見合わないだろうな。
二足歩行というのは車輪で動くような効率性がないし。
20時、一番流行っていそうな時間帯なのだけど、レストランは他に一組のお客さんしかいなかった。
豪勢とはいっても、いつも一品のところを二品頼むのみ。
それでも満腹で苦しい。
桟橋に行ってみた。
今晩は釣り人でごった返している。
みんなイカのルアー釣りだ。
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